弁護士 清 水 俊

2020年10月5日2 分

[Q&A]他人の自転車を無断で乗り回しても「無罪」になるのですか?

質問

駐輪場に放置されている盗難自転車を持ち去ったとして、占有離脱物横領の罪に問われた男性の判決で、福岡地裁が無罪を言い渡したというニュースがありました。他人の自転車を乗り回しておいてなぜ無罪となるのでしょうか

回答

そもそも窃盗じゃないの?と素朴に思う方もいらっしゃると思います。窃盗罪は他人が占有している財物を奪う犯罪、占有離脱物横領罪は占有を離れた財物を自分の物として領得する犯罪です。要するに、他人が事実上の支配(占有)下に置いている財物かどうかに違いがあります。

今回のケースでは、無断使用した自転車が盗難自転車で、所有者や乗り捨てたであろう犯人などの支配を離れた『占有離脱物』であったため、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪が問われたようです。

次になぜ無罪となったのか?ということが気になりますね。

報道を見る限り、福岡地裁は、不法領得の意思が認められないため一時的な使用として無罪としました。

不法領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に(『権利者排除意思』)その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思(『利用処分意思』)を言います。前段の『権利者排除意思』は一時使用(いわゆる使用窃盗など)を処罰しないため、後段の『利用処分意思』は器物損壊罪と区別するための機能を果たします。

今回は、同じ自転車を繰り返し無断使用していたことが、『権利者排除意思』がなく一時的な使用として無罪なのか、それとも『権利者排除意思』を持って領得し占有離脱物横領罪が成立するのかが問題となりました。

無罪の決め手になったのは「自転車使用が1回数時間程度」で「毎回同じ駐輪場に戻していた」事実にあります。裁判所はその事実を重視し、そこから乗り捨てる意思がなく権利者排除意思がないと判断したと考えられます。

もしかしたら一般の感覚からは離れた結論なのかもしれませんが、事実に対する評価が入る以上、結論が分かれることはあります。この件が高等裁判所で判断されることになればもしかしたら有罪となるかもしれません。

詳しい回答内容は取材協力した弁護士ドットコムニュースに掲載されていますのでそちらをご覧ください。

 

 

弁護士 清水 俊